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サクラ大戦R 第1話
〜花の都に咲く勇姿〜
神沼洋助


 春のうららかな日差しが暖かく包み込む公園。そこはのどかな平和で満ちている。仲の良い親子、絵を書く老人、恋を語らうカップル、そして・・・・・・・・・。
「リオンさ〜ん! どこにいるんですか〜? いないなら返事してくださ〜い!!」
 自分を呼ぶ声に青年は目を覚まし、声のする方を振り向く。
「なんだ、イェナか・・・・・・。どうした、なんかあったのか?」
「なんだ、どうしたじゃないですよ。私(わたくし)がどれだけ探したと思っているんですか?」
 リオンの言葉にイェナと呼ばれた少女は口を尖らせる。
「もうすぐお仕事の時間ですよ。また遅刻するつもりですか?」
「そっか、もうそんな時間か」
「もう、こ・ん・な・時・間・です!」
 言い争いを続けながら二人は公園を後にしていった。

「ムーランルージュ」
 パリ モンマルトル地区にある赤い風車が目印のパリを代表する劇場。そのムーランルージュが二人の仕事場である。
「そういえばリオンさん。今日のレビューは私の番なんですよ。絶対見に来てくださいね」
「・・・・・・・・・」
 その言葉を聞いたリオンは眉間にしわを寄せている。何故かといえばイェナのレビューを見にいって リオンはろくな目にあっていないからだ。ある時はダンスで使う棒がすっぽ抜けて顔面にヒットし、またある時は転んでステージ を壊し翌朝まで修理をやらせられたりした。
(誰が見に行くか)
 リオンはそう心の中で呟いた。

 日が沈むとパリのもう一つの顔が姿を現し始める。このムーランルージュもそんなパリのもう一つの顔だ。 赤い風車がモンマルトルの夜を美しく照らし出し、きらびやかなダンスが人々を魅了する。 ムーランルージュは毎晩大急がしである。
「ったく、毎日こんな忙しいんじゃ昼寝でもしてなきゃいられねぇよ」
 彼の仕事はモギリ兼ボーイ。今も今夜の客のチケットをモギっていたところだった。 忙しいといっても一通りの客が入ってショータイムが始まればその間は暇であり、 彼はいつもこの少ない空き時間はムーランルージュの中をまわって歩くことにしている。 迂闊に暇そうなところを見せたらどんな仕事を押し付けられるかわかったものではないからだ。 今夜も彼はいつも通りとりあえず売店に顔を出すことにした。

「ありがとうございましたぁ〜! あ、いらっしゃいませぇ・・・・って、なぁ〜んだリオンさんか」
「な〜んだって、そんな言い方しなくても・・・・・」
 リオンは売店の売り子らしいハツラツとした少女と話し始める。名前はフェル・サンネット。 少しクリーム色がかかった髪をポニーテールにしている、少し間延びしたような喋り方が印象的な美少女だ。 実際に彼女目当てでやってくる客も少なくない。
「あれぇ? リオンさん、イェナさんのレビュー見に行かないんですかぁ? イェナさんとってもはりきっていましたよぉ」
「行かないつもりです。あいつのレビューを見にいって良かったためしがないですから。今日見にいったらどんな目にあわされるか」
「そんなこと言わないで見にいってくださいよぉ。今夜は私といっしょに選んだ特殊ダンススーツなんですからぁ」
「特殊ダンススーツ・・・・・・・?」
 聞き慣れない単語に怪訝そうな表情を浮かべるリオン。
「ほらぁほらぁ、気になってきたでしょ? そういうわけですからさっそく一階客席へGO!」
 うまく言いくるめられた気がしなくもなかったが特殊ダンススーツというのはたしかに好奇心をそそられたので、
「わかりました。行けばいいんでしょう、行けば」
 と「いかにもしょうがないから行ってやる」風に捨てゼリフを残して、一階客席へイェナのダンスを見に行くことにした。もちろんそんなことはフェルにはバレバレであったが。



「お集まりの紳士淑女の皆様たいへん長らくおまたせいたしました!」
「今宵もムーランルージュ自慢のショータイムをお楽しみくださぁい」
 司会の二人がステージに立ち、ショータイムの始まりを告げる。片方はいつのまに着替えたのかさっきまで売店で 話しをしていたフェル。もう一人は主に事務の仕事をしているメール・サンヴァンティアだ。 紫色の髪をざっくばらんなセミロングに、スレンダーな体型が目を引く。 この二人はレビュー時には司会もやっていて、もちろんメール目当てに来る客も少なくない。
「本日は黒猫イェナと白猫ダンサーズによる黒猫のワルツをおおくりします」
「では、はりきってどうぞぉ〜」
 客席いっぱいの観客の注目を集めながらステージの幕が開く。ライトに照らされ黒いネコのダンススーツ姿のイェ ナが姿を現し、その後ろから白猫姿の踊り子たちが続いて出てくる。
「くるっと回ってニャー! ぴょんと跳んでミャー!」
 イェナのダンスはすごく上手とはいえなかったが、不思議と人を引き付けるものがあった。 外見的にも確かにイェナは美少女といえる。綺麗な茶色い大きな目と短い髪。 体つきも運動神経抜群で体を動かすことが好きなことから健康的に引き締まっている。 しかしそれよりも人を引き付けるのは、彼女の持つ雰囲気とでもいうのだろうか。 その場を楽しくし、嫌なことをみんな吹き飛ばしてしまうような笑顔。そういったものが彼女の一番の魅力であった。 そんな彼女のダンスにリオンも思わず見入ってしまう。
(あいつもなかなかやるじゃないか。この前よりは上手になってるし・・・・・)
(それよりも「アレ」が特殊ダンススーツか?)
 そんなことをリオンが考えている内にダンスは終わりに近づき、
「ちょっちょっちょ・・・・っと、あ〜〜〜!」
 ゴンッ!
 鈍い音が響く。イェナが足を滑らせ、後頭部をモロに床にぶつけたのだ。慌てて幕が閉じられる。
「あ〜あ、やっぱりこうなるのか・・・・・」
 イェナが人を引き付けるのは「放っておけないぐらいのドジだから」、かもしれない。

「お疲れ様です。リオンさん」
「ああ。メールさん、お疲れさん」
 リオンは仕事が終わると秘書室へとやってくる。オーナーに本日の報告をするためだ。 ちなみにメールとフェルはオーナーの秘書までやっている。彼女たちの働きぶりには まことに頭の下がる思いであり、リオンはこの二人には頭があがらない。
「オーナーもお疲れ様です」
「うむ」
 秘書室の奥の支配人室から出てきた男にメールは挨拶を交わす。ゴルダ・マブロマチス。 このムーランルージュのオーナーである。威厳ある厳しい顔つきが性格をよくあらわしている。 フランス紳士とうよりは英国紳士という感じだ。
「オーナー、やることはやりましたし帰ります」
 リオンはゴルダの姿を見るなり逃げるように秘書室をでようとする。なぜなら
「ああ、リオン。明日ここに来る前に市場で野菜を注文してきておいてくれ。頼んだぞ」
 ことリオンにかんして特に人使いが荒いのである。リオンは明らかに嫌そうな顔をしながら秘書室を出ていく。 こうしてまたパリの夜はふけていくのであった・・・・・。



 同時刻 エッフェル塔。そこに一人の人物がいた。夜にエッフェル塔にいることは別に不思議ではない。 ライトアップされたその姿は昼間見るのとは違った印象を与えたし、夜景を見に展望台に登る者も多い。 しかし、展望台でもない鉄骨部分に立っているのは明らかに不自然であり、 さらにいえばその格好も不自然極まりない物であった。 純白のローブに身を包み、自分の顔を見られることを拒絶するようにフードを深く被っている。 風に煽られようやく見える口元には入れ墨らしきものがあり、ところどころ飾り付けられた装飾品はきれいであったが、 それがいっそう全身を覆う危険な雰囲気を強めていた。気の弱い人間なら姿を見ただけで発狂してしまうことだろう。
「始まる、聖なる戦いが。生まれ変わる、このパリが・・・・・」
「長かった・・・・、この時をどれだけ待ち望んだことか。この灯りが我らのモノとなる時を・・・・・」
「さぁ、今こそ立ち上がろう! パリを正しい、あるべき姿へ導くために!!」
 声は夜の闇に消えていく。パリのもう一つの顔は必ずしも喜ばしいことであるとは限らなかった。


 夜が明けて朝が来ると、もう一つの顔はすっかり隠れてしまう。 鳥のさえずりが夜明けを知らせ、焼きたてのパンの匂いが一日の始まりを告げる。
 むろんそれに当てはまらない者もいる。
「すぅ〜〜・・・・・。う〜んっ、んっ・・・・。すかーー・・・・・」
 リオンは自室のベッドで気持ちよさそうに眠っている。
カーテンからもれてくる日差しなどお構いなしといった感じだ。
 カンコーン
 部屋の呼び鈴が鳴ってもいっこうに目を覚まそうとする気配はない。
 カンコン カンコン カンコーン
「・・・・・誰だよ、こんな朝っぱらから」
 呼び鈴の連打に目を眠たそうにこすりながら起き、玄関に向かう。
「リオンさん、おはようございます! さぁ、さっそくいきましょう!!」
 扉を開けたとたんのイェナのセリフ。もちろんリオンはなにがなんだかわからない。
「イェナ・・・・、朝っぱらからいきなりなんなんだ?」
「ああ・・・・・、これも神のお導きです」
「質問に答えろ!」
 しかし、リオンの言葉はイェナには届いていないようで、相変わらず自分の世界に浸ってしまっている。
「ったく、とりあえず着替えてくっからちょっと待ってろよ」
 そう言い残しリオンは部屋の奥に引っ込む。服を替えて、きれいな青色の髪を整える。そんな手の込んだ髪型では ないがリオンにはよく似合っていた。
 身支度を整えイェナのところに戻るが、そこにはイェナはいなかった。玄関から外に出てあたりを見回すとすぐに こちらに向かって手を振るイェナが見つかった。
「・・・・・・!?」
そして、そのイェナの傍らにあったものにリオンは目をみはった。

 リオンはリヤカーを引いていた。しかも、大量のゴミ袋がのせられている。その光景はいやがおうにも人目をひいている。
「・・・・・で、これはどういうことだ?」
「え? なにがですか?」
「なんで、朝から俺が大量のゴミを運ばなきゃならないのかってはなしだ!」
 リオンの隣を楽しそうに歩くイェナが答える。
「な〜んだ、それならそうと早く言ってくれればいいのに。それはですね・・・・・」

 今朝、散歩に出かけていたらお婆さんが困っていたので助けてあげたんです。そのお婆さんはリヤカーで粗大ゴミ をだしに来てたんですが、道に迷ってしまったらしくて・・・・。そこで私がかわりにゴミをだしてきてあげること にしたんです。それでリヤカーをひいて歩いていたらいろんな人がゴミをのせてきて、いつのまにかこんな量になっ てしまって困っていたら目の前にリオンさんの家があったんです。

「おわかりいだだけましたか?」
「わかるか! だいたい道に迷ったその婆さんはどうしたんだよ」
「はい。通りすがりの刑事さんにおまかせしちゃいましたが・・・・それがどうかしましたか?」
「その刑事さんとやらも可哀相に・・・・・」
「どうしてですか? 困っているお婆さんを助けられることがなんで可哀相なんですか?」
 リオンの言葉に驚きの表情を浮かべるイェナ。この様子だと本当にリオンの言ったことがわからないらしい。
「お前は幸せだよ・・・・・」
「はい! 私とっても幸せです!!」
「こっちはついてないよ。まだ朝飯も食ってねぇのに」
 リオンがボヤくとイェナはなにかにきずいて駆けていく。そこには軽食を売る屋台があり、ホットドッグを注文しながらこっちに手を振っている。
「ケチャップとマスタードはたっぷりな!」
 それを見たリオンがイェナに言う。少しは機嫌がよくなったらしいが、ホットドッグ一つで機嫌が良くなるとはけっこう単純である。
「リオンさ〜ん、お待たせしました〜。こんなものですけどとりあえず朝御飯・・(スカートの裾を踏んでしまう)って、きゃ〜〜〜〜!」
 ベチャ
 ホットドッグがリオンの顔面に命中する。
「やっぱり、ついてねぇ・・・・」
 顔はケチャップとマスタードだらけになり、その声には明らかに怒りがこもっていた。その様子を見たイェナが慌てて
「で、でも今はケチャップとマスタードがすごくついてま・・・」
 ズビシッ
「ふぇ〜〜ん、なにもぶたなくてもいいじゃないですかぁ〜」
 言い終わる前にリオンがゲンコツをお見舞いする。
「まったく・・・・・、朝からなにを騒いでいる」
 二人の前に一人の少女が立ちふさがる。
「ん? なんだアンか」
 背はイェナより少し低く、きれいな金髪を頭の左右で大きく結んでいる(リオン曰くカニ頭)。 イェナと同い年だが彼女よりも年下に見えてしまうのはこの髪型が理由の一つとなっているのは誰が見てもわかることだったが アンにはよく似合ってた。
「ほんとだ、どうしたのアン? こんなところで」
「あたしをアンと呼ぶな! 私にはアンジェリーナ・ブルーメールという立派な名前がある」
「はいはい、わかったよ。アン」
「ちっともわかっとらんじゃないか!」
「ちなみに私の名前はイェナ・フォンティーヌですよ」
『   お前の        ねぇ!
 誰も   名前なんて聞いて
   貴様の        はおらぬ!』
 二人の声がきれいにハモる。
「はぅぅぅ・・・・、なんでそういう時だけ息ぴったりなんですかぁ?」
 イェナは二人の気迫にすっかり縮こまってしまう。
「まぁよい。それでいったいなんなのだ、このゴミは?」
 リヤカーいっぱいのゴミ袋に驚き呆れるアン。しかもさっきより増えている。
「ああ、そうだった。ちょうどいい、また増えちまったから少し持ってくれ」
 言いながらリオンはどんどんアンにゴミ袋を渡していく。
「ちょ、ちょっとまて。何故あたしが・・・・」
腕いっぱいにゴミ袋を抱えながらアンが抗議の声をあげるが、
「よ〜し、さっさと終わらせて朝飯食うぞ〜」
「アン、いっしょにがんばろう!」
 イェナには届かず、リオンは聞こえないふりをして二人はどんどん先にいってしまう。アンはしぶしぶ二人の後をついていった。


 リヤカーからあふれるほどのゴミの始末をようやく終えた三人は遅めの朝食をカフェでとることにした。 リオン御用達のカフェ「ラ・ミルフォ」のテーブルにつく。小さい店であるが客は多く、 ちょうど朝の第1陣が済んだところらしい。ウェイターがテーブルの片付けをしているのが目立つ。
「少し遅くなってちょうどよかったみたいですね」
「うむ。やはり朝は静かに食事したいからな」
「おかげで腹ペコだけどな。マスター、いつものやつよろしく!」
「またクロワッサンとコーヒーですか? いつも同じものばかり食べてると体に良くないですよ」
「なんでお前がそんなこと知ってるんだよ?」
「だめですよ、男が細かいこと気にしちゃ」
「いや、気になるから・・・・・」
「まったくお前たちを見ていると本当に退屈せんな」
 そうこうしている内に料理が運ばれてきて、三人ともしばらく食べることに集中する。
「なぁ、俺ずっと気になってるんだが・・・・・」
 食事が一段落してリオンが口を開く。
「だいじょうぶですよ、ワリカンですから」
「そんなことききたいんじゃねぇ」
「では、なんだ? 貴公に悩みなどあったのか?」
 アンが上品に口を拭きながら問う。
「悩みっつーか、なんつーか。今の仕事の話だよ。俺はたしかパリの平和がどうとかいう話を聞いていたんだが、実 際やってることは劇場でモギリや雑用ばかりもう一ヶ月も続けてる。これはどういうことだ? お前らなんか知って るんじゃないのか?」
 この質問にアンは落ち着いて茶をすすっていたが、イェナは目に見えて動揺している。リオンの視線を受けながら ゆっくりとアンがティーカップを置く。
「その時がくればわかるであろう。今はそれしか言えん」

「・・・・・・?」
(なにか隠しているのは確かだが・・・・・)
 イェナに視線を向けてみるが、
「ごめんなさい、リオンさん」
 もうしわけなさそうにうつ向いてしまうだけであった。


 これ以上なにをきいても無駄と判断したリオンは市場へ向かうことにした。昨晩オーナーに頼まれた野菜の注文を しなくてはならない。いつもの八百屋に注文を済ませたその時、朝市の賑わいは悲鳴に変わった。絹を裂いたような 悲鳴とはこういう声をいうのだろう。
 慌ててそちらに目を向けたリオンが見たのは血を流し倒れる少女に、腰を抜かした男、 そして白銀の鎧兜に身を包んだ人物だった。右手には血を滴らせた大剣を、左手には赤い十字架の紋章を 印した盾が握られている。剣についた血は刺された少女のモノであり、鎧にも返り血が点々とこびりついていた。そ して・・・・リオンは見てしまった、兜から覗く恐怖の目を。それはなんという目であったろうか。殺気とも怒気と もなんとも表現できなかったが一つだけ言えるのは、その眼光が「人間の目ではなかった」ということだろう。その 目と目をあわせてしまったリオンはその場で立ちすくんでしまう。
「あ・・・・うぁ・・・あぅ・・・・・」
 まるで金縛りにあったように手足が動かない。すぐに近くでおこっている悲鳴も遥か遠くのように聞こえる。 腰を抜かしていた男はあまりの恐怖に失禁してしまっていた。 そしてその恐怖に歪む顔に大剣が振り下ろされたその時、
 カシーン!
 金属が激しくぶつかる音が響きわたった。アンがどこから持ってきたのか戦斧で剣を受け止めている。アンは歯を くいしばって耐えるが小柄なアンとこの鎧騎士とでは力の差は明らかであり、このまま押し切られてしまうの目に見 えていた。
「リオンさん、伏せて!!」
 背後からの突然の声にリオンは我にかえり、とっさに体を地面に伏せる。
 ズガガガガガガガガガ・・・・・・・・・・・・・
 凄まじい銃声が悲鳴をかき消した。後ろを振り向くとイェナがこれまたどっから持ち出したのか マシンガンをぶっぱなしている。鎧騎士が銃弾を盾で防いだ瞬間にアンが突き飛ばす。
「お前ら・・・・これはいったい・・・・・」
 地面につっぷしたままのリオンが疑問の声をあげる。
「話は後です。今はこいつをなんとかしないと・・・!」
 二人は鎧騎士を睨みつけた。するとパトカーのサイレンが近づいてきて、警官隊が殺到してくる。 その様子を感じとった鎧騎士はなんと自らの影の中に沈んでいったではないか!
「おのれ、逃げられたか!」
「しかたないわ、アン。とりあえずムーランルージュに戻りましょう。さぁ、リオンさんも早く!」
 早くと言われてもリオンには今の状況がさっぱりつかめない。
「なにをしている、出撃だぞ!」
「そう言われてもいったいなんなんだよ、これは? それに出撃って・・・・・」
「来ればわかります。いいからついてきてください」



 二人の後をついていくとムーランルージュにたどりついた。
「ムーランルージュ? こんなとこにいったいなにが」
「さぁ、こっちだ。遅れるでないぞ」
 疑問に思うリオンを後目に二人は中へ入っていってしまう。
「リオンさん、落ち着いて着替えてくださいね」

 シャッターが開くとそこにはポッドがあり、イェナがそこに立つと座席が現れる。 席につくと誘導灯のようなものがついて降下していく。降下した先は小部屋となっており、 イェナがその部屋に着くと同時に壁から服一式が出てくる。 イェナは服を脱ぎ捨てその服に着替え始めた。アンダースーツを着てブーツを履き、 最後にジャケットのファスナーを閉めて髪をかきあげる。

 本棚が左右に開いてモニターが現れ、その部屋の中央に位置する円卓にはゴルダが座っている。 彼の両脇には既にフェルとメールが控えている。そこに赤い戦闘服に着替えたイェナが、 反対側からは青い戦闘服を着たアンが現れ、二人そろって敬礼をして、イェナが報告をする。
「巴里華撃団・花組、全員集合しました!」

「なんなんだ巴里華撃団ってのは? それにこの格好。ムーランルージュの地下にこんなものがあるなんて知らなかったぞ?」
 黒い戦闘服に着替えたリオンが驚きの声をあげる。それにゴルダは冷静に答える。
「いっぺんに聞かれても答えられん。フェルとメールが状況の確認を終えるまでもう少し時間がある。その間なら質問を受け付けるぞ」
「じゃ、じゃあまずは・・・・・「巴里華撃団」っていうのはなんなんですか?」
「では、その経緯から話すとしよう。先の日本での大戦は知っているな? あの事件で霊的脅威の恐ろしさと霊的防衛力の重要性を世界各国は改めて思い知らされることとなった。そこでその先駆けとして「欧州防衛構想」が再始動し、その中核を担う巴里華撃団が再び発足されたというわけだ。巴里華撃団とは平和を脅かす邪悪な者達から人々を守ることが任務である。お前がここで働き始める前に言っておいたはずだがな」
「信じてませんでしたよ、そんな話。それじゃ、このムーランルージュは?」
「このムーランルージュは巴里華撃団の総司令部であり、地下にはここ作戦指令室や格納庫が存在している。都市を防衛するには都市の中に基地を置くのは当然だろう。それに劇場というのはカモフラージュにはもってこいなんだ。現にお前は気づいていなかったしな」
「最後に、戦うといってもどうやってあんな化け物とやりあおうっていうんですか?」
「それに関しては場所を変えよう。格納庫に案内しよう」
 ゴルダに案内されてやってきた格納庫でリオンを待っていたのはリオンのまったく予想外のものだった。
「ひ・・人型兵器・・・・・?」
「そうだ。これが巴里華撃団の切り札『霊子甲冑 光武F』だ。あの黒い奴がお前の乗る機体だ」
 ゴルダの指さす先には、黒をメインに赤いのライン入った光武Fがある。その隣には真っ赤なボディに大きな十字架をペイントをした機体があった。
「ずいぶんと派手だな、ありゃ」
 それを見たリオンがポツリと感想をもらす。
「あ、あの赤いやつが私のです! 隊長機ですからしっかり覚えておいてくださいね」
 イェナの言葉に驚きを隠せないリオン。
「イェナが隊長・・・・・。マジかよ・・・・」
「残念ながら本当だ、諦めろ。それとイェナ機の隣があたしのだ」
 イェナ機の隣にあったのは、スカイブルーの機体に白いラインをいれた機体がある。それがアンの機体らしい。
「さぁ、次はこっちだ。今度は巴里華撃団の足を見せてやる」
 ゴルダに促された先には地下列車が発進準備を進めていた。
「こいつの名は『エクレール』。光武F輸送用の弾丸列車だ。このエクレールを使えばパリのどこへでも速やかに戦線を展開することができる」
「すごい、これほどの装備があるなんて・・・・」
 何も知らされていなかったリオンはさっきから驚かされっぱなしである。エクレール眺めているとメールの放送がはいる。
「敵怪人に動きがありました。作戦指令室まで戻ってください」
 全員の表情が自然に引き締まる。

「敵は凱旋門を占拠。シャンゼリゼ通りに向けて機動兵器を展開しています」
「現在、警官隊が応戦していますぅ」
 作戦指令室に戻ってくるとフェルとメールが状況を説明してくれた。それを聞いたゴルダが指令を出す。
「よし、直ちに出撃だ。リオン覚悟はいいな?」
「ああ、まかせとけって!」
「本当にだいじょうぶなのであろうな? 先ほどは随分とふるえていたようだが」
「う、うるせぇ。さっきはいきなりでびっくりしただけだ。今度は光武だってあるんだ、いつでもいけるぜ」
 それを聞いて安心したゴルダがイェナに向かって言う。
「よし、イェナ。出撃命令を出せ」
「はい。巴里華撃団・花組、出撃せよ! 目標地点、凱旋門!」
『了解!』



 シャルル・ド・ゴール広場にそびえ立つ凱旋門。そこから東、 コンコルド広場まで続いているのがパリでもひと際賑やかなシャンゼリゼ通りである。 そこは今、戦場と化していた。
「ダルサス警部、もう持ちません。撤退しましょう!」
 パリ市警の制服を着た警官に声をかけられたトレンチコートを着た男は顔に悔しさをにじませ叫ぶ。
「やむをえん。総員退却だ!」
 ダルサスの指示で警官隊が退却し始めたと同時に最前列のパトカーが爆発炎上した。炎の中から姿を現す電気獣「 シュトレーン」。西洋鎧を思わせるボディが炎に照らされ不気味に浮かび上がる。その光景を見て凱旋門の足元に立つ男が笑い声をあげた。
「でいぇひゃっひゃっひゃっ! 愉快愉快。この調子なら パリの浄化にそう時間はかかりそうもないな〜」
 白のタキシードに片眼鏡、鼻の下に短い曲線を描く髭を生やしている。
「そこまでです!」
 男の笑いは突如をして遮られた。男は声の聞こえた方を振り向くと、赤、青、黒の煙とともに光武Fが登場。各機、武器を取り出し構えをとり、叫ぶ。
『巴里華撃団、参上!』
「な・・巴里華撃団だと・・・・?」
「そうだ。我々が来たからにはこれ以上好きにはさせん」
「てめぇもさっきの鉄仮面の仲間だな、エセルパン!」
「もうこんなことはやめて元のやさしいおじさんに戻ってください、エセルパンさん」
「だぁれがエセルパンだ! このディマンシュ様を馬鹿にしおって、シュトレーンやってしまえ!」
 男の言葉にシュトレーン各機が戦闘体制をとる。
「望むところです。受けて立ちますよ〜」

 一方この光景を見ていた市民は唖然とするばかりである。彼らにとって人型兵器どうしの戦いなど空想の中のもの でしかないのであったから当然だ。華撃団の公式な記録は一切残っておらず、人型蒸気も時代の流れに消えた。過去 に人型兵器が活躍したことなど余程の兵器マニアでなければわからないであろう。常識を逸した光景にこれは夢かと 思った者も少なくなかったが、轟く銃声や爆音、爆風に現実であることを知らされた。その場の誰もがさっきまでの 恐怖を忘れ立ち尽くしていた・・・・・。

「まだ市民が残っているのか。パリ市警はなにをやっているのだ」
 呆然と戦いを眺める市民を見たアンがつぶやく。
「いいんじゃねぇか? 観客が多い方がこっちもやりがいがあるってもんよ」
「バカ者! 市民に被害が出たらどうする!」
「そうですよ。私なんてすでに街灯一本に車を2台壊しちゃってるんですよ!」
「それは、お前がむやみにぶっぱなすからだろうが!」
 こんな会話をしながらも三人は敵をどんどん蹴散らしていく。 リオン機は長剣、イェナ機は黒光りするマシンガンを2丁もっている。
「これで最後だ!」
 アン機の武器は少々変わっている。短めの柄の両側に両刃の斧状の刃がついている。 それを最後の一機の頭部に叩きつけた。頭を潰されたシュトレーンはゆっくりと倒れ、 動かなくなった。この有様にディマンシュは顔を真っ赤にした。
「おのれ、貴様ら。この私を本気で怒らせたようだな」
「なんて言おうとあとはあんた一人だけだぜ」
 リオン機が剣でディマンシュを指さす。
「そうだ。もう無駄な抵抗はやめて、おとなしく投降しろ。そうすればなにも命までは取らん」
「もう勝負はつきました。私たちがこれ以上戦う必要はありません」
 三人の説得(?)を聞いてもディマンシュの様子は変わらない。不敵な笑みを浮かべながら叫ぶ。
「いでよ! 電気獣『エクリュグラン』!!」
 ディマンシュの足元に幾線もの電流が走り、魔法陣が形成される。その魔法陣から大型の電気獣が、カマキリ型電 気獣「エクリュグラン」が三人の前に姿を現した。複眼を思わせるカメラアイ、両腕の大きな鎌、黄緑色のボディと その姿は正にカマキリであった。ディマンシュの姿が消え、カメラアイが光る。
「行くぞ、巴里華撃団!」
 エクリュグランが4本の足を動かし、鎌を振りあげて襲いかかる。その攻撃を三人はかろうじて避わすが、鋭い攻撃に避けるのが精いっぱいになってしまう。
「くっ・・・・・・!」
「きゃ〜! ひぇ〜! どぅわぁ〜!」
「おのれ・・・・・。だがこの程度で!」
 アン機が隙をついて攻撃を仕掛けるが
「甘いわぁ!」
 エクリュグランは右の鎌で弾き飛ばす。通りの店に叩きつけられショーウィンドウが割れる。
「甘いのはそっちだぁ!」
 リオン機の長剣が右腕を切り落とし、銃弾が浴びせられた。たまらずのけぞるエクリュグラン。
「アン、だいじょうぶ!?」
「なんとかだいじょうぶだ」
「立てるか?」
 リオンの問いに機体を起こそうとしてみるが、立ち上がれない。
「無理だな。足腰の駆動系をやられたらしい」
「小賢しい真似をしおって・・・・。貴様ら全員まとめて吹き飛ばしてくれる!」
 ディマンシュの声に振り替えると、エクリュグランが起き上がる。こちらを睨みつけた瞬間、胸部が開いた。そこ には小型のミサイルがびっしりと詰まっていた。いくら小型とはいえあれだけの量があればここらいったいは吹き飛ぶだろう。
「死ねぇい!」
 今正に撃とうとした時「それ」が飛んできた。アン機が斧をブーメランのように投げたのだ。斧がエクリュグラン の胸部につき刺さり、ミサイルが激しい爆発をおこす。
「ぐぉぉぉぉ・・・・!」
「やったか!?」
 その時、煙の中から1発のミサイルが飛んできた。生き残りがあったらしい。そのミサイルはリオン機目掛けて襲いかかる。
「リオンさん、危ない!」
 リオン機の前に赤い機体が割ってはいる。イェナ機はミサイルの直撃を受けて動けなくなる。
「イェナ、だいじょうぶか!? イェナ! イェナ!!」
 返事はない。煙が晴れてボロボロになったエクリュグランが現れる。
「ふんっ! 仲間を庇ってやられるとはずいぶんとお約束なことをしてくれるじゃないか」
 ディマンシュの言葉にリオンの目に怒りが走る。
「なら、この後の展開も予想がつくだろぉぉぉ!!」
 カメラアイが強く光り、油圧が唸りをあげる。リオンから凄まじい霊力が吹き出していた。
「これで終わりだぁぁぁぁぁ!」
 剣を振りかざしエクリュグランに突撃する。その時エクリュグランの口部が光った。
「馬鹿め、終わりなのは貴様の方だ」
 リオン機に向けて光りの帯が放たれる。
「アン!」
 リオンが呼んだときには既にアン機が盾を投げていた。地面に突き刺さった盾が攻撃を防ぐ。リオン機はその盾を 踏み台に飛び上がった。
「でぇぇりゃぁぁぁぁ!!!」
 渾身の一撃がエクリュグランの頭部に突き刺さる。
「馬鹿な・・・・、この私が破れるとは・・・。巴里華撃団恐るべし・・・・・・ぐぉぉぉぉぉぉぉ・・・・!」
 全身に火花を散らせ、エクリュグランは爆発、姿を消した。同時にリオン機が煙を吹き膝をついて動かなくなる。 ハッチが開けてリオンが出てくる。エクリュグランの残り火を見ながらそっと呟く。
「イェナ、お前の仇はとってやったからな・・・・」
「すご〜い! リオンさん、私の仇をとってくれたんですね!」
「どぅわ〜! 出た〜〜〜!!」
「ひとをおばけみたいに言わないでくださいよ〜。足だってありますよ、ちゃんと」
「気絶していただけだ。命に別状はない」
 いつのまにかアンも機体から降りてきていた。その言葉に深いため息をはくリオン。
「まったく人騒がせ奴だぜ・・・・・。んじゃ、敵さんもやっつけたし帰るか」
「待ってください。カーテンコールがまだですよ」
「カーテンコール?」
「や、やはりアレをやるのか?」
 アンは気が進まない様子だ。その反面イェナはやけにはりきっている。

「それじゃ、いきますよ〜。勝利のポーズ・・・・」
『決め!』



 パリ市庁舎、市長室。そこに二人の男がいた。一人は窓の外を見ており、もう一人はボロボロの服を着てひざまず いていた。ディマンシュだった。窓から外を見ていたスーツの男・・・・・、サミディ・カーチス現パリ市長が目だ けを振り向かせ口を開いた。
「ここに来るまでの間に誰にも見られなかっただろうな? まだ我々の存在を公にするわけにはいかんからな」
「いえ、受け付けのねーちゃんにめっかりました」
「馬鹿者! あれほど誰にも見つかるなといっただろうが! まぁ、それについてはこちらで処分する。それにしてもずいぶんとやられたものだな」
「やつらの力は予想を遥かに上回っております。油断は禁物かと・・・・・・」
「お前のその姿を見ながらだと説得力があるな」
 明らかに皮肉がこもったセリフだったがディマンシュは構わず続けた。
「あと、やつらが気になるセリフを・・・・・」
「謎の鉄仮面のこと・・・・だろう?」
「はい・・・・・・」
「我々以外にもこのパリを狙う者がいる・・・・・ということか。注意を払っていた方がいいかもしれんな・・・」
 サミディは再び窓の外へと目を向けた。

「早くきませんかねぇ、お迎え」
 三人は動かなくなった光武に腰掛けて回収班が来るのを待っていた。
「でも、来たら来たで帰ってお説教だろう?」
「仕方あるまい。光武を初戦で全て壊し、町もこの有様だしな」
「まぁ、いいじゃないですか。敵は倒せましたし、なにより町の人たちを助けることができたんですから」
「ま、そういうことにしとくか・・・・・」
 この日、巴里華撃団はデビューを勝利で飾った。平生十三年4月、春の暖かな日のことであった・・・・・・・。





次回予告
 やった〜! パリに行けるなんて夢みたい。
 しかも、スッゴイ機械をいじらせてくれるんだって。
 う〜ん楽しみ♪
次回 サクラ大戦R!
 
第2話
花の都のメカニック少女

機械だって泣いたり笑ったりするときがあるんだよ・・・・・。